一文一投

思ったことを、だれかにひょいっと投げるきもちで

短編

鬼灯の夏

今年も、玄関にほおずきが届いた。 熟れたまま立ち枯れたトマトみたいに美しい、橙色のほおずきだった。 奥さんが両手に抱えて、阿弥陀様にお供えしに行った。 本堂の台所で、一緒に届いた白と黄色の小菊をバケツに付けながら、一人ふと思った。 お盆が来る…

海と親不知

親不知を抜いた。「ご苦労さんでした」全ての施術が終わった後で、遠山歯科の遠山先生は言った。「抜いた歯、持って帰る?」私が頷くと、遠山先生は小さなジップロックのビニール袋に入った歯をくれた。私はそれを受け取り、しばらく眺めた後、持ってきたハ…