一文一投

思ったことを、だれかにひょいっと投げるきもちで

冬の朝

ふるると震えて起きると
外は雪だった
しばらくぼぉっと考えて
恋人にぴったりと寄り添う
生きている人間は
暖かい
例え眠っていても
ずっと眠ったままに見えても

そうしてしばらくして
ちっとも恋人の腕が
私の腰に絡んでこないのを考えて
ふと寂しくなって
世界からすべて取り残されたみたいに悲しくなって
ぴったりと寄り添うのをやめて
天井を見る
知らない場所みたい
白い天井、白い蛍光灯

やがてこうやって
2人重なって朽ちて行くイメージを持つと
なぜか少しだけ元気が出た

生きているものは死んで
生きているものは死んで朽ちて
細かく分解されて
粒子になって
風に漂ってみたり
土と混ざり合ってみたり
戯れて戯れて

そしてまたあなたのところに還れたらいい
そんな風に思う
雪の朝だった

金曜深夜零時

こつ、こつ、と靴を鳴らして部屋の中に入ると、当たり前だけれど真っ暗で、手探りで電気を点けて「ただいまぁ」と言ってみたけれど、寝ぼけたみたいに間抜けな自分の声が響くばかりで、引っ越して間もないがらんどうの私の部屋は、闇から何かを跳ね返しながら、確実に寂しくてあったかかった。

ストーブの電源を入れてスンと鼻をすすった。自分が、泣いていないのに泣いているみたいだった。泣いてるのかもなあと思ったところで本当に涙が出そうで、今度はバスルームに行って思いっきりお湯の栓をひねった。もうもうと立ち込める湯気の中で、今度こそ本当に泣いた。泣きながら服を脱いで湯船に滑り込んで、そしてまた泣いた。
 
誰かと居るなんて無意味だ。寂しいだけだから。
 
理解されたくて、理解をしたくて、いつも誰かを求めてみる。求めると求められるっていうのは世界の法則で、だから私は常に誰かに求められている。たまに「愛しているけど振り向いてくれない」っていう愚痴を聞くけれどあれは嘘で、「愛しているけど振り向いてくれない自分」を求めているから、そんな自分に求め返されているだけだ。本当に愛しているなら、必ず相手から求められる。しかもごくかんたんに。
 
本当は求められたくなんてない。求められるくらいなら、ずっと寂しい方がいい。いやいや、本当の私はどっちだろう。理解されて、飲み込まれたいっていう私と、理解しようとしてくる人を、飲み込んで吐き出していたいっていう私と。
 
世界は、寂しい悲鳴で出来ている。
 
お湯から出て体を拭いた。裸んぼのまんまで、コーヒーを入れた。ひき立ての豆の、いい匂い。南の国に行ったみたいで、少しだけ楽しい。
ラジオを捻ると、時報がちょうど0時を告げていた。金曜深夜零時の云々カンヌン、連休前のパーソナリティはおしゃべり。
 
おはよう明日の世界、あんたなんかに生きてやるもんか。
 
ベッドに潜り込んでまぶたを閉じた。さようなら、さようなら、世界さんさようなら。
船の上からテープを持って、さようなら、さようなら。波打ち際で出航を見送る人たちに、優雅に微笑んで、手を振って、さようなら、さようなら。
そしてロープは切れて、海に飲まれて見えなくなる。私は、旅立つ。
人生の幕をそんな風におろせたらいい。さようなら、さようならと、波打ち際に手を振るように。さようなら、さようなら。世界さん、さようなら。
そんなことを思いながら、金曜深夜零時の何時何分に、別れを告げる。遠くで眠りから溶けた星が鳴っている。今夜の宇宙の天気、晴れ。あしたも、きっと晴れるだろう。世界はどこまでも冷たく、晴れるだろう。

カガミ

土曜日の帰り道。


大声で座席を占領している、うら若きお嬢さんたちに出会う。

見ればけっこう可愛い。まさに「恋するお年頃」といったところ。

ふと窓に映った自分を見る。

髪はボサボサ、化粧もはげてる。靴底はすり減ってるし、そういやコートの毛玉なんて、最後にいつ取ったのやら。

ため息が出そうになって、ふと笑った。お嬢さんたち、今が花だよ。若さも、若さに伴う美しさも、今を逃せば一生手に入んないよ。

なーんて、31歳が言うことじゃないか。しかしまあ、終電間近の31歳、窓に映った私はしっかり「オバサン」だ。


帰ったら湯船に浸かって、しっかりお肌の手入れをしよう。新しい靴を買って、コートの毛玉を取ろう。

「大声で話すお嬢さん、お里が知れてよ」

そう注意しても、一歩も引かない、うるさいよオバサンなんて言わせない。

そういう女性に、私はなりたい。


やさしいあした

バスタブの中でシャワーを浴びていると、自分がどうしようもなく大きな存在であるかのような気がしてきた。目を瞑ってシャワーの水滴に顔を濡らしている私はすくすくと大きくなっていって、やがてバスタブの天井なんか超えてしまって、このちっぽけなアパートも飛び越えて、そして宇宙へのいちばん端っこへと届いていくのだ。

ふふふ。少し笑う。こんなこと考えるなんて。私ってやつは、平和なのか、それともどっかおかしいのか。

シャワーを浴びすぎてのぼせた体を冷やしたくて、バスルームの戸を開けた。開けっ放しにしたままバスタブに腰かけて、しゃこしゃこと歯を磨く。左、右、上、下……。歯の前側全体をおおざっぱに磨いたところで、玄関の扉が開く音がした。

「ただーいまぁ」

間延びした声がしてパタパタとスリッパの音が近づいてくる。ソラさんだ。

「おひゃえりー」

口の中が泡だらけの私は、変なイントネーションでおかえりを言って、片手を上げた。

「また、もう!この子は!」

キッチンに入って来たソラさんは露骨に顔をしかめる。せせこましいこのアパートは、キッチンの奥(冷蔵庫の横あたり)がお風呂になっていて、扉を開け放していると浴室の様子が丸見えなのだ。

「扉は閉めるように言ったでしょ」

ソラさんは私を見下ろしてたしなめる。私は口から泡をペッとやって応戦する。

「ソラさんになら見られてもかまわんの」

「そういう問題じゃない。妙齢の娘が」

「じゃあ一緒に入る?」

「遠慮しときます」

ソラさんたら恥ずかしがりなんだからあ~。そう言う私に背を向けてソラさんは冷蔵庫のドアを開けた。

「ビール買ってきたし、お店の残りのカポナータもあるんだけど。ヤエちゃん歯を磨いちゃったみたいだし、何より聞き分けの悪い子だからあげませんね」

「ええ!ちょっと待って!すまん、すみません、ごめんなさい悪かったです」

ソラさんはここから10分ほどのところでお店をやっている。ソラさんが朝から仕込む料理はめちゃくちゃ美味しい。美味しいけど滅多に食べに行かない。お店でソラさんの顔を見るのは、なんだかくすぐったいのだ。

私は急いで歯をゆすぐとバスルームから飛び出し、ソラさんに怒られないようちゃんと衝立を立てて、体を拭いた。湿ってじっとりと熱かった体が、コットンのタオルで癒されていく。すうっとのぼせてるのが引いて行って、ますますビールが飲みたくなる。

「お待たせしました」

タンクトップとジャージになってリビングに行くと、ああ言った割にソラさんはきちんとグラスを二つ出して、カポナータもしっかり二人分用意して待っていてくれた。私はソラさんのそういうところに、いつもキュンと来る。

フェデラー。負けちゃったのね」

ニュースを見ていたソラさんがポツリと言った。

「ソラさんテニス観ないくせに」

私はまたちょっといじわるな気持ちになってからかう。

「観ないけど」

ソラさんは「ううん」とうなった。

「けっこういい男じゃない、フェデラー。たまんないね」

私はハイハイと聞き流し、ビールのプルトップをひねった。ソラさんと軽く乾杯する。いただきますを言ってスプーンでカポナータをすくった。ひんやりとしたカポナータには甘酸っぱいトマトの匂いが満ち満ちていて、思わず喉が鳴る。えい、と口に放り込む。

「おいしい」

私の一言にソラさんは「当然よ」と笑った。そして「でも良かった」と目を細めた。そんな顔をしているとき、私はソラさんにどうしようもなく「お母さん」を嗅ぎ取る。母性と言うには大きすぎる、まさに「お母さん」の匂い。でもソラさんがお母さんになることは絶対にない。

「いつも思うけど、ソラさんは」

私はカポナータをもぐもぐやりながら言った。

「オトコにしとくの、もったいない」

ソラさんはまたお母さんみたいに笑った。

「わたしも、そう思うわあ」

 

 しばらく黙ってビールとカポナータを進めた。テレビは深夜の音楽番組に変わっている。特集!夏に聴きたい恋の歌!なんだろうね、夏に聴きたい恋の歌って、なんだろね。ソラさんに聞いてみる。

吉田拓郎の夏休み」

ソラさんは平然と答える。

「えー、あれ恋の歌じゃないもん」

「恋の歌ですよ」

「どこが」

「姉さん先生もう居ないって歌詞があるでしょ。あれはね、姉さん先生のこと、ちょっと好きなのよ。淡い初恋みたいに好きなのよ」

「へええ、ソラさんたら妄想族。乙女だね」

「そうよ、わたしオトコだけど、誰よりも乙女なんだから」

ソラさんの恋愛対象は男性だ。特定の相手は、今は居ないみたい。二年位前に死ぬほど恋したの、だからもう今はおなかいっぱい。そんな風に言っていたことがある。

ふとソラさんの視線が気になった。私の肩のあたりをじっと見ている。

「なに」

ソラさんの視線を目で追いかける。

「ううん」

ソラさんはふーっとため息をついた。

「わたし、あんたのこと引き取って正解だったあ」

「いきなりどうしたの」

「わたしね、肩がツンと尖って内側を向いてる女ってね、ほんとにいい女だと思うのよ。身も心もいい女は、そんな肩をしているのよ。ヤエちゃんの肩はまさにそんな感じ」

そうかなあ。私は自分の肩を見つめてみたけど、自分じゃさっぱりわからなかった。

一年前、何もかも一度になくした私に声をかけてくれたのがソラさんだった。ヤエちゃん、わたしと暮らさない?わたし、ゲイだから。だいじょうぶよ、一緒に暮らしたって。

それは今でも、とっても思い切りが必要で、そしてとってもすてきなアイデアだったと思う。

 「寝ましょうか」

ソラさんが隣の部屋に布団を敷き始めた。

「ねえソラさん、一緒に寝てもいい?」

ソラさんの部屋の入口に立って言う。

「ええ!?」

ソラさんは掛け布団を落っことすくらい仰天した。

「いいじゃないの。まんざら他人ってわけでもあるまいし」

「何を言うの。だめだめ、ぜったいだめ」

首をぶんぶん振るソラさんを尻目に私はソラさんの布団にもぐりこんだ。こら、ヤエちゃん、だめ、出なさい、これ。うろたえるソラさんを、布団の隙間からそっと見上げる。ねえソラさん。私は言った。

「私たち、しあわせ?」

ソラさんはきょとんする。

「私たち、しあわせかなあ」

恋人同士じゃなくても。家族じゃなくても。なにがどう、誰と違っても。その続きを言いかけてやめた。ソラさんの手が私のほっぺに伸びたから。

「ヤエちゃん」

ソラさんは私のほっぺをやさしく撫でた。

「わたしは、しあわせよ」

涙が出そうなくらい幸せなときが、人間にはちゃんと用意されている。しかもそれは、感じようと思えばいつだって感じられるくらい側に、こんなにもたくさんたくさん、用意されている。人と違っていても、正しいとされない形であっても。たくさんたくさん、用意されている。

「しょうがないな」

ソラさんは電気を消すと、するりと布団に滑り込んできた。

「今日だけね」

ソラさんの体は、ふんわりと優しくあたたかかった。お店の残り香だろうか、バジルみたいな、ぴりりとしたいい匂いがする。

「おやすみなさい」

ほとんど同時にそう言った。

カーテンを閉め忘れた窓から、レモンみたいなやさしい月が見える。あしたも、きっと、いい一日になるだろう。

出会うこと、大切にすること

とにかく、書いてみます。ライターになりたいのに「読んでもらえる文章なにもないです」じゃ始まらないから。
…というような事を思う出会いに、最近恵まれています。それも劇的に。
「以前チラリと会っていたけれど、そんなに気に留めていなかった人との付き合いが変化する」…みたいな形はよくあります。でも、最近の出会いはそうじゃないみたい。
例えるなら、タバコ屋の角を曲がったところで相手とバーン!持ってたスタバのコーヒーが服にべっしゃり!…みたいな(笑)そんな出会いです。
衝撃的な出会いは必ず何かをもたらします。ノッティングヒルの恋人みたいに、運命の恋人というわけじゃなくても、そこから何かしら得るものがある。
たとえ「出会った事を後悔する」といったような事からでも、得られるものは必ずあります。
幸い最近の私は、自分の今の立ち位置や能力を認識したり、そしてこれからの可能性なんていうスバラシイものでさえチラリと見えてしまうような、そんな出会いに恵まれています。ありがたや。
人と出会う事って、好きです。その人が今後どうやって、どのように、私の人生に「居て」くれるのか。考えるだけでワクワクします。もちろん「別れる」事もあるのだろうけど、やはりそれも「別れる」事との「出会い」だと思います。
出会った人を大事にすること。それにはまず、自分の「つうしんぼ」を付けること。
それも、正確に明確に。五段階評価だけではなく、出来れば「お花係として毎日花瓶の水を変えてくれました」みたいな、自分を表すコンテンツが充実しているといい。自分には、何が出来て、どういうことを、どう思っているのか。ちゃんと相手に伝えられなくちゃ。

最近の出会いを通じてそんなことを思いました。

誰かと触れ合う上で、自己評価が低くても高くてもいけないんですね。今更そんな事に気付きました。でも、気付けて良かったとも思う。

ともあれ、「自分というものをもう一度認識するため」または「こんなん出来たんや!って自分を発見するため」そして「誰かに見てもらうため」。そんな感じで、文章を書いてみます。新しい出会いを大事にしたい、そしてこれからもたくさんの人に出会いたい。そんな気持ちで。
続くといいな。続けよう。出来るかな。わくわく、わくわく…。

おわり